2014年7月の読書 その2
思い出したように書いております(大汗)
○新読
パロール・ジュレと魔法の冒険 著:吉田 篤弘(角川文庫)
天の梯ーみをつくし料理帖シリーズ 著:高田 郁(ハルキ文庫)
ダーウィン家の人々ーケンブリッジの思い出 著:グウェン・ラヴェラ、訳:山内 玲子(岩波現代文庫)
○再読
明治・大正・昭和華族事件録 著:千田 稔(新潮文庫)
以下、敬称略です。
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「パロール・ジュレと魔法の冒険」
キノフという街では、誰に届けられることもなくつぶやかれた声が凍りついて結晶になるという。その摩訶不思議な現象の秘密をめぐり各国の謀報員たちが暗躍。紙魚となって古書に潜入し、登場人物の記憶と身体を掠めとって戻ってきたフィッシュ、彼を追う辣腕刑事、凍った言葉を解く4人の解凍士、そして美しき義眼の女…この世で最大の神秘、パロール・ジュレとは一体何なのか?言葉を巡る壮大なマジカル・ファンタジー! (「BOOK」データベースより)
吉田 篤弘氏の作品は初めて読みました。
ファンタジーというより、幻想小説です。
陽炎のようにゆらめき、何百年、いや、何千年にわたる、今は忘れられた記憶が影となって覆う街、キノフ。
SF的解釈を拒絶し、世界の広さ、歴史、政治的背景も全て曖昧で混沌とした世界の中で、主人公が背負っている使命とは何なのか。
主人公の容姿そのものも、薄靄のように変化していきます。
それ故にでしょうか、序盤はつかみどころがないというか、「主語のない物語」のように感じましたが、次第に主人公の思念―ブレない使命感と深い悔恨のフィルターを通じてキノフという街、街の住人たちの不思議さに惹かれていきました。
輪郭がしっかりしているかのように見えても、さらさらと読者の掌からこぼれていく、住人たち。
夢の世界を緻密に描いたならば、このような世界になるのかもしれません。
夢ならではの不条理性もありますが、この物語における不条理は、すべて切ないのです。
有為転変、そして無常観に満ちた、氷の結晶のように儚く美しい物語。
読み応えのあるファンタジーでした。
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「天の梯ーみをつくし料理帖シリーズ」
『食は、人の天なり』――医師・源斉の言葉に触れ、料理人として自らの行く末に決意を固めた澪。どのような料理人を目指し、どんな料理を作り続けることを願うのか。澪の心星は、揺らぐことなく頭上に瞬いていた。その一方で、吉原のあさひ太夫こと幼馴染みの野江の身請けについて懊悩する日々。四千両を捻出し、野江を身請けすることは叶うのか!?厚い雲を抜け、仰ぎ見る蒼天の美しさとは!?「みをつくし料理帖」シリーズ、堂々の完結。 (「BOOK」データベースより)
ああ、終わってしまいました。寂しい。
全てが良い方向に向いだした前巻の流れそのままに大団円を向かえました。
終盤、野江の気持ちを正面きって描かなかったのが良かったです。
最後の最後まで、奮闘する澪、そんな澪を支えてくれる人々。
清右衛門さん、大活躍。いいキャラでした。
どうかみんな幸せになれますように。
澪のその後を番外編で書いてくれないかなあ。
結末もはっきりしたことですし、できたら連ドラで・・・は、無理かもしれませが、ぜひSPで、最後まで作って欲しいです。
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「ダーウィン家の人々ーケンブリッジの思い出」
『種の起原』であまりにも著名なチャールズ・ダーウィンの孫娘による本書は、ダーウィン家の群像とヴィクトリア朝上流階級の人間模様をウィットとユーモアあふれる表現で生き生きと描き出す。百数十年前のケンブリッジの街並みと、多くの科学者を育んだダーウィン家の人々が蘇ってくる。著者自身によるペン画の挿絵も魅力的であり、古き良き時代の英国を描き出す至上の回想記として英米ではベストセラーにもなった。待望の復刊。 (「BOOK」データベースより)
著者:ラヴェラ,グウェン
1885‐1957年。チャールズ・ダーウィンの孫娘、天文学教授ジョージ・ダーウィンの長女としてケンブリッジに生まれ育つ。スレイド美術学校で油絵を、独学で木口木版画を学ぶ。フランス人の画家ジャック・ラヴェラと結婚してフランスに住むが、夫の早逝後にケンブリッジに戻り、木版画の制作に集中。象徴的な光と影の表現を木口木版画で試みた先駆者。1952年出版の本書は英米でベストセラーとなり、今も読みつがれる。 (「BOOK著者紹介情報」より)
ダーウィンその人にはほとんど興味がないのですけれども、「百数十年前のケンブリッジ」で育った子供たちの話、ということで購読しました。
自伝ですので、あまり身内の不始末については書かかれていません。子供が見た世界ですから、醜聞は必要ないでしょう。
20世紀前後の、ケンブリッジ及びインテリ階層の暮らしぶりと子供の世界が、著者の挿絵とともに生き生きと描かれていて、まるで童話を読むごとくでした。
ちなみに、ケンブリッジはこの本を読む前と、読後の計2回、観光で訪れましたけれども、本の中に書かれた町並みとほとんど変わっておらず、著者が住んでいた屋敷も、外観からですが、面影が残っていました。
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「明治・大正・昭和華族事件録」
近代日本の新名家華族をめぐる醜聞(スキャンダル)。公爵・侯爵・伯爵・子爵・男爵。瀟洒な邸宅、豪華な調度品、着飾った紳士・淑女、深窓の令嬢のイメージで語られる「華族さま」の実態は…。 (「BOOK」データベースより)
この時、朝ドラはまだ「アン」だったので、白蓮絡みで再読しました(^^;;
新聞社によって採り上げ方が違うことも含め、華族たちの事件記事を丹念に拾った本です。
関係者たちの事件後の消息も、ごく一部、例外はありますが、記事になったものだけを載せており、著者が能動的に追うことはありません。
彼らのその後を著者が知らないはずはないのですが、わざと載せていないのです。
著者の主観は文章としてはほとんど表現されていないので、この手の本にありがちな、著者の思い込みにつきあわされる不快感がありません。
事件の並べ方、記事を紹介する言い回しに、事件そのものやマスコミのスタンスに対する著者の感想が、巧みに込められています。
事件の数々も面白く、ついつい熟読してしまう作品です。
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» 『明治・大正・昭和 華族事件録』 [観・読・聴・験 備忘録]
千田稔 『明治・大正・昭和 華族事件録』(新潮文庫)、読了。
明治、大正、昭和前半の間に起きた
様々な華族の事件について収録しています。
その内容は、刑事事件から不倫、自殺、婚姻トラブル、左翼活動など多岐に渡ります。
よくもまぁ、これだけの事件を調べたなと感心するのですが、
一方で、センセーショナルな事件を紹介することに主眼が置かれていて
言ってしまえばワイドショー的な関...... [続きを読む]
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