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2010年4月 9日 (金)

NHKドラマ 火の魚

島に住む老作家、村田省三(原田芳雄)のもとに、原稿を受け取るため東京の出版社から女性編集者・折見ちと子(尾野真千子)が通ってくる。小説家と編集者は、歳は違うがプロ同士。互いに一歩も譲らず、丁々発止のバトルが繰り広げられる。
あるとき小説の装丁を、燃えるような金魚の「魚拓」にしたいと思いついた村田は、折見に魚拓を作ることを命じる。
魚拓をとるには、金魚を殺さなければならない。(公式サイトより)

原作:室生犀星「火の魚」
脚本:渡辺あや/演出:黒崎博/音楽:和田貴史/制作統括:行成博巳
出演:原田芳雄/尾野真千子/高田聖子/笠松伴助/岩松了

平成21年度文化庁芸術祭大賞 受賞

公式サイト

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原作未読です。

冒頭、老作家が10年間籠っていた瀬戸内海の小さな島から上京したシーンのBGMに1970年代前後のロック風ギターが使用されていて、なんだかなぁ、と思っていたら、この音楽そのものが老作家のかつての無頼な生活を表現していたのだと途中でわかりました。このBGMは2回ほどしか使われていません。

原田さんへのリスペクトも込められていたのかもしれない。

この無頼時代の写真が、若かりし原田さん自身だったのが、懐かしかったです。

無駄なエピソードやキャラがなく、55分という時間を最大限に生かしきった作品。
録画したまま観るのを忘れていたのですが、観てよかったです。

絞り込んだ印象的なセリフの数々。そして非常に映像的なドラマでした。映像的、というのは主人公たちの心の動きをセリフだけでなく、映像で表現している、ということです。

老い、そして死と向かいあうことの恐怖と孤独。
テーマは重いのですが、陰鬱な作品ではありません。むしろ軽やかなテンポで描かれています。この軽やかさが主人公たちの切ない心象を際立たせているような気がしました。

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以下、粗筋を書いていますのでご注意ください。

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かつては売れっ子作家で、10年前に突然故郷の島に舞い戻ってきたも、頑固で変わり者、人付き合いも最悪で、書いている作品も子供には見せられないものらしく、島の人々にはあまりよく思われていない村田。しかし本人は気にしていない。

そこへ新しく担当としてやってきた編集者、折見。

「最初は実に気に食わなかった。」

若くて女性で、しかも慇懃無礼。

村田を見て、「あー」と無表情に確認する折見。
「あー、とは何だ。あーとは。」

礼儀知らずな奴だと、プライドが傷ついた様子。

「あー」というのは折見の口癖のようです。

いったんは追い返す村田ですが、船を待っている間に龍を絵を砂浜一杯に大きく描いた折見に興味を持ち出しました。
変わらぬ時が淡々と流れる島では、どんな小さなことでも、日常と違うことが起きると興味がわく。退屈しのぎといったところです。

折見が学生時代、人形劇の美術をやっていたと聞いた村田は、担当を続けることの条件に村の人々を集めて劇を上演することを持ち出します。
折見が断れるわけもなく。
上演した影絵はオスカー・ワイルドの「幸福の王子」。テーマと本作品が重なり合います。
懐かしい話でした。思い出すだけでも泣けてくる・・・

意外にも感動してしまった村田。

上演後、セリフの間が悪かった、と反省する折見。村田の心境が段々変化していきます。

「俺は折見を好ましく感じていた。そしてそのことに戸惑っていた。年よりは人を嫌うことは得意である。いがみ合いも憎しみ合いもみなゲーム。故にそんなことには傷つかない。傷つくのはむしろ好ましく思った時である。」

老いてしまった自分に自信がない。逃げ出したくなる。

わざわざ取り寄せた折見用のマグカップを眺め、自分の心境の変化に戸惑う村田。
マグカップには渋い色彩のぼかしの中に、ワンポイントで小さく赤い金魚が描かれていました。

カポーティ、チェーホフ、横光利一が好きだと言う折見に、正直に言え、俺の小説なんか読んでいないだろう、馬鹿にしているだろう、とからむ村田。

折見は先生の作品は全て読んだ、と答え、村田の作品に対して的確で容赦のない批評を礼儀正しく述べはじめます。

42歳の時に書かれた作品が最高でした。それが突然劣化するのは島に引きこもってから。情けないです。腹が立って仕方がありません。あれほどの作家が何をしているのか、と。特に女性の描写が最悪です。男に都合のよい女性ばかり。

村田は反撥しない。そのとおり。

遊びまくった売れっ子時代。それが10年前、胃に腫瘍が見つかって以降、不摂生な生活とすっぱり縁を切り、一切の虚勢を捨て、島に引きこもった。

けれども闘うことをやめたと同時に俺の小説も形骸化した、ということなのだろう。死におびえ、死んだように生きている。あきらめようとしていたものを求めようとした時に苦しみがはじまる。俺はもう、何にも求めたくない。

「辞めさせるか、折見を。」

孤独であることで心の平穏を保ってきた村田は、自分の生活や精神が崩されることを恐れ、折見を追い払おうとして小説のヒロイン、「金魚娘」を殺して連載を終了してしまいます。

「その方がいいいです。」

全く動じない折見。好きな人に相手にされないようなもどかしさを感じる村田。

「お前、何か恐いものはないのか。」

「死ぬのは恐いです」

「何言っているんだ、若いくせしやがって。お前に何がわかるんだ。」

癌の恐怖に怯えている村田の天邪鬼な部分に火がつき、残酷な作業を強要します。好きな女の子を逆に苛めてしまうように男の子のように。

それは村田の小説の装丁に使用するために、村田が可愛がっていた赤い金魚の魚拓を作ること、つまり、金魚の息の根を止めること。

「それで気がすむのなら。」

魚拓をとるシーン。動揺する折見と彼女を凝視する村田のまなざしがエロティックでした。.

魚拓をとった後、ねぎらいのつもりで連れて行った食堂で「一番のご馳走を」、という大雑把な注文をしたら、何と鯛の生け作りが出てきた。
バツの悪そうな村田。
断ることもなく、ただもくもくと食べる折見。この食べ方が何とも秀逸でした。

「ひどく後悔していた。」

そして性懲りも泣く、新連載の担当に折見を指名しようとしますが。折見は村田に黙って担当から降りてしまっていました。
その理由は。
癌のために入院したから。2年前に手術した癌が再発したのです。

島のよろずやで金魚を注文して折見に送ろうとするなど、思わず錯乱する村田。
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こうして村田は折見を見舞うためだけに、久しぶりに上京します。

会ってくれるだろうか。どきどきしながら。ぱりっとスーツを着こなし、真っ赤な薔薇の花束を持って。昔のダンディーさが偲ばれます。

村田は病院のロビーにあるイスに腰掛けている、パジャマ姿の折見を見かけます。なんと弱々しげで儚げなことか。
折見の方も村田の姿を認めたのですが、姿を消してしまいます。

折見に逃げられて病院の庭に所在無く座り込む村田の前に、「制服」とでもいうべきスーツ姿に着がえた折見が現れ、担当していた時と変わらぬきびきびした様子でお礼とお詫びを述べます。

「薔薇を持った先生のお姿を見て、病院中の女が色めきたっております。」

スーツ姿にローパンプスですが、頭に治療の後遺症のためかニット帽を被っているのがシュール。
わざわざ着がえる折見の、自分を律する心が切なく感じました。

「すまなかったな」

色々無理難題、というか駄々をこねたことを謝る村田。(こんな大衆作家の担当になって)嫌だっただろう、と。癌にはストレスが一番良くないんだ。

「先生、私を侮られてはこまります。むしろ逆でございます。」

2年前に手術をしてから自分はこの世で一番孤独だと思った。

しかし、先生は私以上に寂しい方であられました。他人の不幸は密の味と申しますが、先生の無残は孤独ぶりだけが私の心の慰めでした。

実は、自分から願い出て村田の担当になったのだと告白します。
誰よりも先生の孤独を理解できる、という妙な自信があった。

「先生、死を意識されたことはおありですか。その時、人間は果てしなく孤独です。でも、その孤独こそが先生と私を強く繋げてくれる気がしました。」

薔薇を受け取り、やっと涙する少女のような折見。

「先生、私、今、もてている気分であります。」

「あながち気のせいでもないぞ」

病棟に戻る際に深々とお辞儀をする折見を見つめる村田。

島へ戻る途中、船上にて。

折見の生はいつまで続くかはわからない。モノローグで折見に語りかける村田。

しかし、もし、叶うなら、今生、どこかで会おう。なっ。

「たばこ吸いてぇー!」と叫ぶ村田のシーンでこの物語は終わっています。
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少女っぽさというか、妥協を許さぬ、純粋な魂を無愛想な表情の中に秘めたインテリジェンス溢れる女性編集者、折見は尾野さんにぴったりの役だったと思いました。

隠遁してはいるが、実は俗っ化の塊でエネルギッシュ、そして大人気ない(笑)、老作家。
無頼派だったころの色気と格好良さの「残り香」のようなものを漂わす村田、という人物を演じられた原田さんは絶品でした。

村田と折見。この二人の孤独な人間の精神的な交流を、肉惑的でありながら、清純に描いていたように感じました。

肉惑的、と感じたのは原田さんの「色気」及びカメラワークから、清純、と感じたのは尾野さんの育ちの良さをうかがわせる凛とした雰囲気と、原田さんの悪がきっぽい雰囲気のためかもしれません。
老作家の創作欲や生への執着が画面から伝わりました。

もう一歩踏み出すと、谷崎潤一郎的世界になるのかもしれない、危うさ。

この「危うさ」が作品の魅力となり、一方の「清純さ」が風格になったのだろうと思いました。

もし、DVD化されたら買います(^^)

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内容かつて、ベストセラーを連発した作家・村田省三(原田芳雄)今は、故郷の島にひきこもり、細々と小説を書いていた。ある日のこと。創論出版の女編集者・折見とち子(尾野真千子)がやってくる。担当の伊藤(岩松了)に代わり、原稿を受け取りに来たという。だが、どう...... [続きを読む]

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